遠野物語ゼミナール2005

By tmkenkyu on 2005/8/28 19:16 in 遠野物語ゼミナール | No Comments

遠野物語ゼミナール2005  「『遠野物語』と北の文化」

 第12回遠野物語ゼミナールは、8月26日(金)、27日(土)、28日(日)の3日間、あえりあ遠野「中ホール」を会場にして開催された。
テーマは「『遠野物語』と北の文化」で、アイヌ語地名から始まる東北地方に見られる北からの文化をたどってみようという試みであった。

zemi05isii.jpg講義 1 基調講義 
「柳田国男と東北-『遠野物語』から『菅江真澄』へ-」
 東京学芸大学教授 遠野市立図書館博物館長
遠野物語研究所研究主幹 石井正己

初日は、基調講義で、石井正己先生から「柳田国男と東北-『遠野物語』から『菅江真澄』へ」と題した講義があった。
まず『遠野物語』の中の「諸国」「全国」「他の国々」「外の国」「東国」「西の国々」などの「クニ」という言葉が、どのような意味で使われているかを知ることを指摘された。幕藩体制下の「国」の概念、アイヌに対するヤマト、外国に対してのわが国などの用例から柳田が想定している拡がりを知ることができる。
次いで、『雪国の春』の成立にも、東北という地域を総体的にとらえようとする柳田の態度がみえる。主に日本海沿いの歩いた菅江真澄を一つの柱とすると、それに対置するように真澄の歩かなかった陸中海岸を補完するような「豆手帖から」を根幹に据えてて完成している。
そこで南の椎葉と北の遠野、南の『海南小記』と北の『雪国の春』のように、対置している地域を並立させて、柳田は互いに補完するように目配りしていることに注目したいという。最晩年の『海上の道』が南からの視線であるので、北からのルートが残されたテーマになっているという。
 

zemi2005komei.jpg講義 2 記念講演 「北からの文化と東北日本」
国立歴史民族学博物館名誉教授 佐々木高明 

記念講演は、元国立歴史民族学博物館長の佐々木高明先生で、「北からの文化と東北日本」という演題であった。
山の神が、日本の南と北では様相が異なることから始まって、いままで南から伝播した農耕文化論が主導的であったが、最近の研究で北方系の農耕が見られることについて、カブの遺伝子をはじめ雑穀の遺伝子学的な研究がすすんでいるという事例を紹介した。
アイヌには農耕がなかったという通説に対して、続縄文から擦文時代にはアワ・キビ・大麦の農耕が見られ、さらに初期アイヌの遺跡から畑地が発掘されたことを紹介した。シャクシャインの乱で徹底的に抹殺されたが、実際は古いアイヌに優れた農耕文化があったことが確認されている。
その擦文大麦のルーツをたどると樺太や渤海の文化とつながり、今後、日本の南からの文化流入に対して北からの文化ルートを解明する必要があることを期待された。

zemi2005ken.jpg講義 3 「伊能嘉矩の『遠野馬史稿』を読む」  
      遠野物語研究所研究員 菊池 健

第3講は、地元講師の菊池健先生が「伊能嘉矩の「遠野馬史稿(江田明彦校訂による)」を読む」という講義があった。
遠野の台湾研究者としての伊能嘉矩像を紹介して、郷土研究者としての一面を示す「遠野馬史稿」の概略を述べた。馬に関する遠野の歴史、馬の競市、総馬改、馬に関する民間行事、馬に関する民間信仰などを紹介し、驥北の地としての遠野の人馬一体のヒューマニズムが見られると結んだ。

zemi2005yagai1.jpg zemi2005yagai2.jpg

夜の野外交流会は、雨天のために会場を中ホールとした。 

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 第2日は綾織のフィールドワークである。石上山登山をメインとして、登山が難しい方のために婆石・牛石のトレッキングコースを設定し、石上神社で神楽を見て昼食とする予定だった。台風11号が接近して、26日に雨が降ったので、登山不可能と判断して雨天日程に振り替えた。
 最初に、高柳が作成した「伝承に見る綾織」の解説版をパワーポイントで見て、綾織の概略を把握していただき、その後は博物館や町内散策にあてた。バスで綾織地区センターに移動、そこで昼食と石上神楽を観賞した。熱演で好感がもたれた。午後、舟越保武作の内田福蔵の像を見てから、駒形神社・光明寺・千葉家・みさ崎の婆石・虫のギャラリーと巡回した。いずれも行き届いた案内で、地域としての綾織を紹介できた。

zemi2005mukasi.jpg夜の昔話
あえりあの語り部ホール、民宿りんどう、ホテルきくゆうに分散して行われた。いろり火の会の協力によって、それぞれ昔話の世界を堪能していただいた。 

 

zemi2005miura.jpg講義 4  アイヌと東北と
千葉大学教授 三浦佑之

3日目は、三浦佑之先生の「アイヌと東北と」の講義で始まった。『遠野物語』の河童は、当時メドチと呼ばれていたようで、それがアイヌ語のミンツチとどのようにかかわるかを考察。さらに『遠野物語』の夫鳥がマオ鳥でアオバトであるのだが、アイヌのユーカラのワオ鳥とつながりがあり、東蝦夷と旧南部領との交流の歴史が背景にあるのではないか。そして東北のイタコとアイヌのトウスとは共通に北方系の社会的文化的な伏線があるのではないかと述べ、ボカシの地帯としての東北の文化研究が発展することに期待を寄せた。

zemi2005sinpo.jpgシンポジウム  『遠野物語』と北の文化
司会 東京学芸大学教授 石井正己
千葉大学教授 三浦佑之、遠野物語研究所研究員 菊池健、遠野物語研究所研究員 高柳俊郎

シンポジウムは、石井先生の司会で、発表者の三浦・菊池と高柳から補説があり、北の文化をテーマにして、『遠野物語』の背後の世界にある「北へ」、あるいは「北から」の問題を改めて見直す意義が強調された。
全体を通して、台風の影響で日程・会場などの変更を余儀なくされたが、それを想定した態勢を整えていたので大きな混乱もなく、内容的には充実できた。
(文責 高柳俊郎)